Disney+ (ディズニープラス)で配信の「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」をレビューします。
「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」は、『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズであり、初の動画配信サービスオリジナル作品となった「マンダロリアン」の制作秘話を、様々な角度から明らかにする全8話のドキュメンタリーシリーズ。
従来の『スター・ウォーズ』映像作品であれば、ビデオパッケージにメイキングをはじめとした特典映像が収録されており、これを鑑賞することもファンがパッケージを購入する動機のひとつとなっていたが、配信限定作品であり物理的なビデオソフトがない「マンダロリアン」は、本編と同じ配信プラットフォームであるDisney+ (ディズニープラス)にて会員限定で特典映像を提供する。
その特典映像が、「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」というわけだ。
「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」は、「マンダロリアン」製作総指揮のジョン・ファヴローをホストとして、スタッフやキャストが円卓を囲んだ座談会形式でのトークを中心に、メイキングフッテージやインタビュー映像を織り交ぜていくという構成で作られている。
「マンダロリアン」と同様に全8話のシリーズだが、各回は「マンダロリアン」シーズン1全体の制作について語られており、各回が特定のエピソードにフォーカスしているわけではなく、キャスト、テクノロジー、音楽などといったように、各回ごとに設定された異なるテーマにて「マンダロリアン」シーズン1の舞台裏を最短19分~最長38分の平均すると約30分程度の時間にて掘り下げていく。
そのため、「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」は、「マンダロリアン」本編全8話を鑑賞してから見るべきシリーズで、基本的に本編は鑑賞済みという前提となっている。
シリーズ終盤のストーリー上で重要なシーンも取り上げられ、本編未見の方はネタバレを避けられないので必ず本編を8話見てから鑑賞しよう。
ここから先は、「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」の全8話の各エピソードの見どころを紹介していく。「マンダロリアン」本編のストーリーの核心などのいわゆるネタバレ要素や、「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」で語られる印象的な内容を取り上げていくので、両シリーズを未見の方はご注意頂きたい。
「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」全エピソードレビュー
第1話「制作の舞台裏(Directing)」
原題の「Directing」が指すように、「マンダロリアン」にて各エピソードを監督したデイヴ・フィローニ、デボラ・チョウ、リック・ファミュイワ、ブライス・ダラス・ハワード、タイカ・ワイティティのそれぞれのこれまでの経歴やバックグラウンドが紹介されていく。
今ではすっかり『スター・ウォーズ』でおなじみのデイヴ・フィローニが、ルーカスフィルムに入社する際のエピソードは興味深い。
当時『エピソード3/シスの復讐』に熱狂していたため、その頃に在籍していたニコロデオンのスタッフによるドッキリかと思いつつ面接に臨み、本物のルーカスフィルムの面接だとわかって興奮する様はファンならば共感する面白さがあるし、念願のジョージ・ルーカスとの面談を通してジェダイについての「創造主の言葉」を聞くことが出来る。
また、デイヴ・フィローニについて語る他のエピソード監督陣の言葉からは、デイヴ・フィローニの『スター・ウォーズ』との向き合い方が伺える。
「『スター・ウォーズ』へのかかわり方が純真で、デイヴ自身のエゴがない」というブライス・ダラス・ハワードの言葉からは、「クローン・ウォーズ」でジョージ・ルーカスと共に作業を行ってきたデイヴ・フィローニの姿勢をよく表しているようだ。
そのブライス・ダラス・ハワードは、自身が俳優であり、特殊効果が多く使われる作品への出演経験がある特性を「マンダロリアン」で活かしていることが語られるほか、父であるロン・ハワードとともに日本でのジョージ・ルーカスと黒澤明の会食の場に幼少期に居合わせた(ただほとんど寝ていた)エピソードが明かされる。
インディーズ作品出身のデボラ・チョウ、リック・ファミュイワ、タイカ・ワイティティは、それぞれのこれまでのキャリアや『スター・ウォーズ』との関わりなどが紹介され、各作家がどのような人物なのかがわかるようになっている。
経験もバックグラウンドも出身媒体も異なる監督が集まったからこそ、各エピソードによって作風が異なり、エピソード監督の色が出ている「マンダロリアン」が出来上がったのだ。
監督業とは日々が学びであり、既存の教科書に固執すれば成功はなく、常に前へ進んでいくというジョン・ファヴローの言葉が印象的で、これが「マンダロリアン」にて新たな『スター・ウォーズ』の地平を切り拓く原動力となっていることがわかるし、見習わなければならない姿勢だと思った。
第2話「レガシー(Legacy)」
デイヴ・フィローニ、ILM視覚効果監修のジョン・ノール、アニメーション監督のハル・ヒッケル、キャスリーン・ケネディ、またキャストやディレクター陣も交えて、『スター・ウォーズ』の思い出や感銘を受けた点、またジョージ・ルーカスが残したものについて語られる回。
ジョン・ノールは、プリクエル・トリロジーを製作する以前のルーカスフィルム内では、毎年『スター・ウォーズ』制作の質問があったという裏話や、CGを多用していることがよくフォーカスされる『エピソード1/ファントム・メナス』が、実はシリーズの中でミニチュアを一番多く用いられているという意外な事実を明かす。
デイヴ・フィローニは、プリクエル・トリロジーを最初に見た時はジェダイ評議会などに期待していたものと異なるという違和感を感じたが、今ならルーカスの意図するものがわかるという。
例えば、『エピソード1/ファントム・メナス』のクワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービ、ダース・モールの戦いでは「運命の戦い」のテーマが流れるが、これはアナキンの運命をかけた戦いであるという解釈を語っている。
『スター・ウォーズ』は大人になりゆく世代に向けた現代における神話であり、先人の知恵を授ける手段が僕らの文化では映画やドラマである、というオリジナル・トリロジー世代のジョン・ファヴローの言葉、そして物語には子供たちのため、「希望」が必要であるというジョージ・ルーカスの言葉を紹介するデイヴ・フィローニの話は、子どもたちのために『スター・ウォーズ』を作ったというジョージ・ルーカスの意志の通りであると感じられる。
「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」では、この『スター・ウォーズ』の遺産(レガシー)にいかに要素をプラスし、次の世代に引き継いでいくかという話題がよく挙がる。「マンダロリアン」は製作姿勢において、この点を重要だと捉えていると思う。
第3話「キャスト(Legacy)」
ジョン・ファヴロー、デイヴ・フィローニに加えて、マンダロリアン役のペドロ・パスカル、キャラ・デューン役のジーナ・カラーノ、グリーフ・カルガ役のカール・ウェザースの主要キャストが座談会に参加し、「マンダロリアン」のキャラクターと、彼らを演じたキャストたちにスポットが当てられる。
中でも、シーズン1のほとんどにおいて名前も顔もない主人公であるマンダロリアンを、演技の面でどのように表現したのかを様々な角度で紹介している。
ボバ・フェットのモデルは、『荒野の用心棒』でクリント・イーストウッドが演じた「名無しの男」であるとジョン・ファヴローは語る。しかし、常にヘルメットを着用して顔を見せないマンダロリアンには名前どころか表情もないのだ。
やはり、これには各エピソード監督も苦心したようで、常にヘルメットを被って目を見せない主人公のマンダロリアンを描くにあたって、わずかな仕草で感情や思いを表現する演出を狙ったという。
この特異な主人公であるマンダロリアンは、演じたペドロ・パスカルによると誰もが鎧をまとい、それを脱ぐことに感じる恐れを表しているということだ。顔を見せない主人公でも、多くの視聴者が知らず知らずのうちに引き込まれていくのは、こうした点も働いているのかも知れない。
他にも、マンダロリアンのセリフの多くはアフレコとなるため、ペドロ・パスカルによるその収録の模様も見ることが出来る。顔のない主人公は、様々な面でチャレンジとなったようだ。
またペドロ・パスカルだけではなく、マンダロリアンを演じるブレンダン・ウェインとラティーフ・クラウダーの2人のスタントダブルもフォーカスされる。ガンファイター、アクション、そして演技と、それぞれの特色を持つ3人でひとりのマンダロリアンというキャラクターを演じていたのだ。
さらに、ジーナ・カラーノ、カール・ウェザースのそれぞれの魅力も余すことなく語られている。
第4話「テクノロジー(Technology)」
「マンダロリアン」において、最も革新的な技術であるのが「ボリューム」と呼ばれるシステムだ(「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」の字幕では、この用語は「仮想空間」とされている)。
このエピソードは、スタジオ内に巨大スクリーンを設置して屋内にいながらして異世界の情景を作り出す「ボリューム」の仕組みを解説したものであり、「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」の中でも必見の回と言える。
「ボリューム」とは、天井と壁をLEDスクリーンで囲み、LEDにそのシーンの背景を映し出すことで仮想空間を作り上げる直径約23メートルの円形の撮影スタジオだ。
このLEDスクリーンはただ背景を映し出すだけではなく、リアルタイムで映像処理するゲームエンジンの技術を活かし、カメラの動きに合わせて視線と視差を変更出来るモーショントラック機能を持っているので、カメラの動きに合わせて背景も変化する。
そのため、スクリーンに映るものをカメラで写しているにも関わらず、その場にいるかのような映像を撮影することが出来る。
これにより、あらゆる劇中の舞台を屋内・屋外の設定を問わず描くことが出来、多額の予算で作られた『スター・ウォーズ』映画シリーズとのギャップを埋め、配信サービス用のテレビシリーズの予算とスケジュールの中で、クオリティを保つことが実現出来たのだ。
かつて構想されていた『スター・ウォーズ』実写テレビドラマは、50時間分の脚本が出来上がっているものの、予算内で制作出来る技術がないため進行出来ないと判断されていたわけだが、ついにこの課題がクリア出来たわけだ。
これは『ジャングル・ブック』、『ライオン・キング』といったジョン・ファブローの作品で培われた技術の延長線上にあることが明かされる。
「ボリューム」の利点は、金属質のヘルメットやアーマーを着用しているマンダロリアンが主人公の本作にとって、従来の合成では鏡のようなヘルメットに写るグリーンバックの背景の処理に労力を費やしてしまうところを、「ボリューム」内で撮影した被写体の映像をそのままを使用しても問題ないということが挙げられる。
さらにキャストにとっても、グリーンバックを用いた合成のように、CG処理された光景を想像する必要はなく、あたかもロケーション撮影をしているかのように目の前に写る情景の中で演技をすれば良い。
スタッフやキャスト間で想像しているものが異なることもなく、イメージを常に共有しながら制作出来るのも大きな利点だ。
この技術を用いれば、世界各地のロケーション撮影へ行く必要もなくなるかも知れない。
「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」は新型コロナウイルス感染拡大が起こる前に撮られたと思われるので、このことには触れられていないが、コロナ以降に世界各地で撮影出来なくなったドラマ、映画の撮影においても有用な技術であることは間違いないだろう。
第5話「特殊効果(Practical)」
最新技術である「ボリューム」を紹介した第4話に対して、続くエピソードでは特殊メイクや造形、アニマトロニクスといった撮影現場に実際に存在する特殊効果であるプラクティカル・エフェクトについてのメイキング編となっている。
「マンダロリアン」は仮想空間での撮影も画期的なのだが、そのセット内にはその場に実在する小道具などの美術があり、またマスクやスーツ、アニマトロニクスで表現されたキャラクターがいることで、よりリアリティのある画作りが実現されているのだ。
例えばアグノートのクイールは、マスクやスーツを着用したキャストであるミスティ・ローザスの演技に加えて、セリフ関連の表情の動きと、眉の動きを別々のパペティアが分担して表現。これに加えて、ニック・ノルティが声の演技をしている。
そして、「マンダロリアン」で大きな存在感を持つキャラクターといえばザ・チャイルド。「ヨーダの種族の赤ちゃん」というアイデアから、その姿を様々なコンセプトアートにて試行錯誤して現在のザ・チャイルドとなった過程が明かされていく。
さらに、様々なアーテイストたちによって操演されることでザ・チャイルドに命が吹き込まれていく様子は驚異的。あの生きているかのようなかわいらしさの表現は、プラクティカル・エフェクトの集大成とも言えるだろう。まさに職人芸。
この他にも、実は「マンダロリアン」で使用されていたプラクティカル・エフェクトの数々が紹介されていく。
マンダロリアンのスコープ越しに写るブラーグは、なんとトニー・マグウェイによるパペットを使ったストップモーションであることが明かされる!ブラーグが初登場した『エンドア/魔空の妖精』と同じ技法にするとは…
トニー・マグウェイは、『ジェダイの帰還』でサレシャス・クラムを造形したスタッフで「マンダロリアン」でもコワキアン・モンキー=リザードの串焼きのシーンに参加している(ジョン・ファブローとデイヴ・フィローニが、「スター・ウォーズ セレブレーション」で披露した際にファンがどよめいたことを話しており、その場にいた者として思わずうなずいてしまった!)。
また、ブラスターはオリジナル・トリロジーに近い時代であるため、第二次世界大戦の銃器を改造するという同じアプローチを行っているほか、宇宙船レイザー・クレストのミニチュアをモーション・コントロール・カメラで撮影するなど、『スター・ウォーズ』の原点に立ち戻りつつも、より進化させた制作方法が明かされていく。
ジェダイの知恵のように先人の知識や力を継承していくだけではなく、『スター・ウォーズ』らしさとは受け継いだものを一歩進めることなのだと、デイヴ・フィローニは語る。「マンダロリアン」が多くのファンに受け入れられる理由は、こうした精神にあることが感じられる一言だ。
第6話「プロセス(Process)」
「マンダロリアン」は、仮想空間の「ボリューム」を用いていることで撮影に至るまでの過程も従来のテレビドラマとは異なるものになっている。
「マンダロリアン」の特色は、制作前に動く絵コンテのようにどのようなシーンとなるかがわかるCG映像であるプレビズを撮影の前に制作していること。しかも、全編分のプレビズを用意しているのだ!
リック・ファミュイワには、準備用に「映画」を作ると表現されている。撮影時に、そのエピソード全体をシミュレーションした映像がすでにあれば、事前のイメージに対して精度の高い素材が撮ることが出来る。
撮影前に全編に渡ってプレビズが必要な理由は「マンダロリアン」ならではの制作手法によるもので、第4話で紹介された「ボリューム」を用いる際に仮想空間に映し出される背景を、撮影前に制作しておく必要があるためだ。
このプレビズの制作にあたっても、ジョン・ファブローが『ジャングル・ブック』、『ライオン・キング』で培った技術が延長して活用され、スタントの動きをモーションキャプチャーで捉え、VRゲームエンジンを使って仮想空間内に用意されたカメラで撮影してVRで確認し、カメラワークとカットを決めて本番を撮影する、という過程が実現されている。
最新の技術を用いて、実際に撮影するまでの間に準備に時間をかけることで、撮影時に想定されるシミュレーションも行われ、イメージが最大限に実現出来るクリエイティブとなるのだ。
ジョン・ファヴローは、エピソード監督陣との集いを道場(DOJO)と呼んでおり、このチームで「マンダロリアン」に望めたことでクリエイティビティが大いに刺激されたようだ。
また、「マンダロリアン」の制作にあたっては『スター・ウォーズ』そのものよりも、ジョージ・ルーカスに影響を与えたものを参照したことが明かされる。
時代劇や黒澤映画、西部劇を徹底的に見る中で、「子連れ狼」のフォーマットが適していると感じたとジョン・ファブローは言う。また、デボラ・チョウは最も参考にしたのは『用心棒』であると発言。
『スター・ウォーズ』が時代劇や西部劇、戦争映画、海賊映画やハリウッドのクラシック映画など、古今東西の様々な要素を取り込んで作られたように、「マンダロリアン」もまたそれらからインスピレーションを求めたことは、『スター・ウォーズ』の源流からそのエッセンスを汲み上げているようだ。
第7話「楽曲(Score)」
ルドウィグ・ゴランソン(ルートヴィッヒ・ヨーランソン)が、いかにして「マンダロリアン」の音楽を作り上げたのかを紹介するメイキング。
リコーダーから始まり、ドラム、ピアノ、ベース、ギターといった各楽器を重ね合わせ、「マンダロリアン」の印象的なあのメロディが奏でられていくオープニングから始まるこのエピソードでは、座談会もルドウィグ・ゴランソン、ジョン・ファブロー、デイヴ・フィローニが出演し、本作の独特な音楽にフォーカスしている。
『スター・ウォーズ』のサウンドにディストピア感を加えること、また『荒野の用心棒』などマカロニ・ウエスタン作品でおなじみのエンニオ・モリコーネや黒澤映画の音楽を参考に、とジョン・ファブローはルドウィグ・ゴランソンに伝えたことを明かすが、まさにこのイメージ通りの楽曲が仕上がったと思う。
音楽においてもキーワードになるのは、顔が見えず、感情表現をすることが難しいマンダロリアンという主人公だ。顔が見えない男の感情表現を、音楽も担っている。
ジョン・ウィリアムズの音楽とはまた異なる魅力を持つ「マンダロリアン」の音楽は、前述のアコースティック楽器に加え、ミレニアム・ファルコンの機内かのような膨大のスイッチのある電子楽器なども用いて作られているが、オーケストラ演奏の楽曲も交えることで『スター・ウォーズ』らしさも忘れていない。
違うことをやることと、敬意を払うことは両立出来るというデイヴ・フィローニの言葉の通りだ。
『スター・ウォーズ』で批判を免れているのは音楽しかないと思う、とジョン・ファブローは発言しているが、2020年現在のシリーズの反響を見ると、その通りだと思う。
これはこの回に限ったことではないが、ジョン・ファブローとデイヴ・フィローニの会話の中にはジョージ・ルーカスが作ったものに対するリスペクトがあふれている。
ジョン・ファブローは、ゼロから作り出したのはルーカスであり、自分たちはすでにあるものの上に積み上げるだけで、あくまで「マンダロリアン」はスター・ウォーズの傍流であり、『スター・ウォーズ』とは競わないし、本家のふりはしないと言う。
しかし、『スター・ウォーズ』と名が付くものに対して過剰な重要性を見出す人たちもいる。『スター・ウォーズ』の根幹は冒険活劇であり、子どもたちのために作られたものであるが、これを変えてしまうのは作品への愛ではなく自己愛である、と断じるのはデイヴ・フィローニだ。
デイヴ・フィローニはさらに、オリジナル・トリロジー、プリクエル・トリロジー、「クローン・ウォーズ」など、長年に渡ってシリーズを展開してきた『スター・ウォーズ』の「本流」というのは世代によって異なるものであり、みんなが好きなスター・ウォーズというものは少しずつ違うと言う。
公開されて43年が経ち、拡がり続けていく『スター・ウォーズ』シリーズに対してフラットな『スター・ウォーズ』観を持っていることが伺え、個人的にも同意と共感が出来る考えだった。
「マンダロリアン」においても、その音楽に惹かれた子どもたちが次世代の語り手となるとデイヴ・フィローニは言う。
おそらく『スター・ウォーズ』とは、各世代、いや各個人ごとにマスターピースがあり、その影を次々に公開されるシリーズ作品のどこかに追い求め続けていくものなのではないか。そして、新たな作品をマスターピースとする人々も現れていく。
そんなリレーを繰り返しながら、それぞれにとってのマスターピースを語り継いでいくものなのだろう。
第8話「つながり(Connections)」
これまでの『スター・ウォーズ』作品とのつながり、過去作に捧げたオマージュが主題のエピソードで、『スター・ウォーズ』のコアなファンは思わずうなずきながら見られる回だ!
「マンダロリアン」に登場した、これまでの『スター・ウォーズ』シリーズの要素は『帝国の逆襲』でスノートルーパーが使用していたEウェブブラスター、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などのデス・トルーパー、さらにレジェンズとなったゲーム「スター・ウォーズ フォース・アンリーシュド」のインシネレーター・トルーパーなどなど枚挙にいとまがないが、無視するわけにはいかないのがベスカーの金庫として使われていたカムトーノだ。
『帝国の逆襲』にて、混乱するクラウド・シティを走り抜けていたウィロー・フードが抱えていたアイテムがこれで、この小道具はアイスクリーム・メーカーを用いたものだった(ちなみに、『帝国の逆襲』ではほかにダゴバで修行するルークの持ち物の中に同形状のものが確認出来る)。
そして近年になって、オレンジ色のジャンプスーツを着てアイスクリーム・メーカーを抱えて走る男の面白みから、このウィロー・フードのコスプレをするファンが増え、ついには集団でアイスクリーム・メーカーを抱えて「スター・ウォーズ セレブレーション」などのイベント会場を走り回るようになった(ウィロー・フードのコスプレが増えたことは、オレンジのジャンプスーツが反乱軍パイロットのコスチュームを流用出来るという点もある)。
このカムトーノに着目した点でも、「マンダロリアン」のスタッフがファンが喜ぶポイントを押さえていることがわかる。
「マンダロリアン」に登場するのは、デヴァロニアンやクバーズといった『新たなる希望』に登場したエイリアンや、マウス・ドロイドやIT-Oといったドロイドなど、近い時代ということもあってかオリジナル・トリロジーで初登場したキャラクターが多い。
また、序盤に登場するキャラクターも常にヘルメットをしたボバ・フェットのようなマンダロリアン(第1話で人間の素顔が劇中に初めて登場するのはヴェルナー・ヘルツォーク演じるクライアントで、スタートしてからしばらくかかる)に、アグノート、ジャワと、その地味さを表現していわく「兄におもちゃを取られた弟」というワードが笑えるが、それがファンにとっては面白いのだ。
おもちゃといえば、「チャプター7:罰」にはケナーから発売されていたビークルトイを元にした帝国軍兵員輸送機まで登場する。
「スター・ウォーズ ホリデー・スペシャル」でボバ・フェットが武器として使用していたアンバン・フェーズ=パルス・ブラスターを本作でマンダロリアンが使用していることについて、ジョン・ファブローが撮影現場に来たジョージ・ルーカスに話す貴重なショットも。「発案者でしょ?」と聞くと、ルーカスが「いや」と即座に否定しているのは面白い!
「チャプター5:ガンファイター」で登場した、あのモス・アイズリー宇宙港のカンティーナのメイキングも。『新たなる希望』を忠実に再現したバーカウンターのセットと、仮想空間「ボリューム」のLEDスクリーンで壁面を映し出すことにより、カンティーナをよみがえらせたのだ。
このカンティーナでバーテンダーとなっているドロイドは、改造されたEV-9D9本人であることがこの回の中で明言されている。EV-9D9は、『ジェダイの帰還』でジャバの宮殿にてドロイドの拷問を行っていた監督ドロイド。ジャバの死後、巡り巡って同じタトゥイーンのカンティーナで働く運命となったようだ。
また同じシーンに登場するR5ドロイドも、ジャワの手でラーズ家に売られる寸前に故障し、代わりにR2-D2が売られることで銀河の運命を変えた、あのR5-D4のその後の姿であることが明かされる!
さらに、このEV-9D9の声はマーク・ハミルが演じていることも証言されるなど、トリビアを知りたいファンには必見のエピソードだ。
エピソードの後半では、帝国軍の世界的なコスチューミング団体の501st Legion(501軍団)のメンバーが「マンダロリアン」に出演することになった経緯と、撮影現場の模様も紹介。撮影に参加した多くの隊員へのインタビューも行われており、ストームトルーパーになりたかったファンたちが、作品に登場するストームトルーパーになった瞬間を描いたこのシーンは、実にグッとくる…
自分が作ったアーマーが、『スター・ウォーズ』作品で実際に使用された小道具になるというのもファンにとって夢がある話だ。
エピソード監督陣のカメオ出演の裏話も。「チャプター6:囚人」ではデイブ・フィローニ、デボラ・チョウ、リック・ファミュイワが新共和国のXウィングパイロット役として出演している。
まさかの出演となったデイブ・フィローニの撮影にあたっての心境や、撮影に使用されたXウィングはフロリダのディズニー・ハリウッド・スタジオにある『スター・ウォーズ』のテーマランド「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」に設置されるXウィングを、パークに搬入される前に使用されたことも明らかに!
本編だけではなく、こうして監督陣が裏話を同じ配信サービスの中で語るコンテンツがあるのは、他の作品でも実施して欲しいと思う。
「マンダロリアン」はこうして、ゼロから築いた創造主とクリエイターたちにオマージュ(ファンを喜ばせるためだけのイースターエッグではなく、真の意味での「敬意」のこと)を捧げながら、継承したものを未来につなごうという想いで作り上げられた。
キャスト・スタッフともに『スター・ウォーズ』の世界に溶け込める人選を行い、放課後に『スター・ウォーズ』のYoutube動画を作っている子どもかのように、アイデアにアイデアを重ねるスタッフの相乗効果を得られたという理想的な現場の姿が、この「ディズニー・ギャラリー/スター・ウォーズ:マンダロリアン」で語られている。
映画作りは前進あるのみ。デイブ・フィローニは最後にこう語っていた。
このシーズン1の存在の上にまもなく公開される「マンダロリアン」シーズン2が、どのような「その先」を見せてくれるのか、楽しみにしたい。
Disney+ (ディズニープラス)にて独占配信中!
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