Disney+ (ディズニープラス)で配信中の日本のアニメスタジオによるオリジナル短編アニメ集「スター・ウォーズ:ビジョンズ」のシリーズ全体を、ネタバレなしでレビューします。
ここでは「スター・ウォーズ:ビジョンズ」というシリーズ全体のレビューとなっており、各ストーリーの核心などのネタバレには触れておりません。すでにご覧になった方も、作品の印象が知りたい未見の方も、いずれもお読み頂ける内容にしております。
ジャパニメーションが描く『スター・ウォーズ』
2021年。
1年延期となった東京2020オリンピック・パラリンピックが開催されたものの、多くの会場で無観客となり、海外から日本にやって来る観光客はいなかった。
2010年代に日本が目指し、2020年に期待されていた訪日外国人が日本を楽しみ、そして日本文化の魅力を発信するインバウンド需要は、そのピークを迎えるタイミングで残念ながら実現しなかった。
しかし、こと『スター・ウォーズ』ファンにとっては、日本のアニメスタジオが『スター・ウォーズ』の世界や設定を最低限のルールとして、『スター・ウォーズ』という共通言語を独自に解釈し、正史(カノン)の枠組みから外すことでストーリー上の整合性からも開放して、自由に創作したこの「スター・ウォーズ:ビジョンズ」こそが、日本の文化やアニメの魅力を世界に発信した2021年の一大イベントということになるのではないだろうか。
「スター・ウォーズ:ビジョンズ」は、日本の7つのアニメスタジオが制作した以下の全9作からなるシリーズで、それぞれのエピソードにつながりはなく、1話あたりだいたい十数分の短編アニメーション集だ。
- 『The Duel』(神風動画)
- 『村の花嫁』(キネマシトラス)
- 『T0-B1』(サイエンスSARU)
- 『赤霧』(サイエンスSARU)
- 『のらうさロップと緋桜お蝶』(ジェノスタジオ)
- 『タトゥイーン・ラプソディ』(スタジオコロリド)
- 『THE TWINS』(トリガー)
- 『The Elder』(トリガー)
- 『九人目のジェダイ』(プロダクションI.G)
自由に創作しているとはいえ、今回の「ジャパニメーションミーツ『スター・ウォーズ』」というお題や、新作映画が公開されるたびに日本のメディアで盛んに話題になる『スター・ウォーズ』が日本の文化や黒澤明監督の映画作品から多くのインスピレーションを得ており、作品を構成する要素のひとつであることもあってか、半分くらいの作品は時代劇で思い浮かべる日本の情景の中に、『スター・ウォーズ』の世界が融合した舞台となっており、それが違和感なく見られるから面白い。
かねてから、日本の和テイストを取り入れた『スター・ウォーズ』グッズは多く発売されてきたし、プロモーションの一環として『スター・ウォーズ』歌舞伎もお披露目されるほどだったが、アニメーションという映像作品でこれをやってくれる日が来るとは…
『隠し砦の三悪人』や『用心棒』、『椿三十郎』、そして『七人の侍』などなど、『スター・ウォーズ』は黒澤映画の影響を大きく受けていることは前述のように広く知られているが、やはりこれらの日本映画が『スター・ウォーズ』の源流であることを考えると、冷静に思えばミスマッチに見えるはずなのにとても親和性が高く、自然に馴染んでいることは大いに頷けるのだ。
何より、日本の『スター・ウォーズ』ファンは「スター・ウォーズ:ビジョンズ」を鑑賞するにあたり、世界の中でも「スター・ウォーズ:ビジョンズ」を楽しむ上で恵まれている。
日本文化が感覚的にわかる上、本作の音声言語は日本語吹き替えがグローバル版となっているので母国語で鑑賞することが出来るし、7つのアニメスタジオの作品もテレビや配信で視聴しやすい環境にある。
中でも、方言や昔の言い回しなど英語では表せないであろう日本語特有の言語表現を理解出来るのは大きなポイントなので本作はぜひ日本語のグローバル版での鑑賞をおすすめしたい。
7つのアニメスタジオの作品を見ていなかったとしても、朝に夕方に深夜にテレビで放送され続け、街にはアニメキャラクターが配された広告が溢れている日本に住んでいれば、特にアニメファンと名乗らない方でも、きっと日常的に日本のアニメーションに触れてきたはずだ。
これまで、『スター・ウォーズ』ファンはアメリカの映画シリーズであるということから、どうしても作品や商品のリリースについての時差が生じたり、日本に入って来なかったりしてきて、「アメリカがうらやましい」と思ったことも1度や2度ではないはずだが、「スター・ウォーズ:ビジョンズ」に触れる環境については、この手のもので初めて「日本にいて良かった」と思えるだろう!
過去作とのつながりから解かれた『スター・ウォーズ』
『スター・ウォーズ』シリーズを鑑賞する際によく話題に上る「過去作の視聴有無」や「見る順番」については「スター・ウォーズ:ビジョンズ」は無縁で、シリーズをすべて見ている必要はなく、『スター・ウォーズ』の舞台設定を知っていれば十分だ。
前述のように「スター・ウォーズ:ビジョンズ」は、従来の『スター・ウォーズ』の正史(カノン)と呼ばれるストーリーラインには乗っておらず、各作品の舞台としてその時代設定を活かしているのみである。
これが最初に見る『スター・ウォーズ』でも構わないと思うし、それぞれの作品は劇場映画レベルのクオリティであると感じられ、制作予算も相応のものだったのではと推測されるので、アニメファンにもぜひ見て欲しいと思う(Disney+ (ディズニープラス)には、クラシックから新作まで多くのディズニー、ピクサーアニメもある)。
『スター・ウォーズ』という傘の下に、異なるスタジオのストーリー上のつながりのないアニメを展開することはテレビでは実現が難しいと思われ、自由に表現した点も含めて、自社の配信プラットフォームであるDisney+ (ディズニープラス)だからこそ実現出来たプロジェクトだろう。
このやり方であれば、新たなスタジオも加えた「スター・ウォーズ:ビジョンズ」シーズン2も可能だし、日本以外の国の特徴的な表現ジャンルにて『スター・ウォーズ』を描くという企画も考えられるかも知れない。
『スター・ウォーズ』という概念を用いて自由に創作すること
「スター・ウォーズ:ビジョンズ」の9作品は、それぞれ多様なアプローチ、多彩なルックで『スター・ウォーズ』を描いているが、驚くのはいずれも『スター・ウォーズ』シリーズとして違和感がないことだ。
映画でおなじみのキャラクターが登場するエピソードは少なく(それも脇役だ)、つまり『スター・ウォーズ』を『スター・ウォーズ』たらしめているのは、ルーク・スカイウォーカーやダース・ベイダーそのものが活躍することなのではなく、ビジュアルや設定、テーマ、映画文法といった『スター・ウォーズ』の世界を構成する要素なのだということがよくわかる。
時代劇や西部劇、戦争映画、海賊映画やハリウッドのクラシック映画、さらには数々の神話など、古今東西の様々な要素を取り込んで作られた『スター・ウォーズ』。
時代を超えて支持されるエバーグリーンなものを源流として、そのエッセンスを汲み上げたからこそ、世代を超えて『スター・ウォーズ』の銀河は広がり続けている。
ストーリーや世界の連続性を保つシリーズを展開する一方で、この「スター・ウォーズ:ビジョンズ」のように『スター・ウォーズ』という概念を用いて自由にクリエイティビティを発揮する作品群が今後増えていっても良いと思う。
ジョージ・ルーカスが様々な名作の要素を取り入れてアレンジし、作り上げた『スター・ウォーズ』の世界に刺激され、そのお約束の中で新たな作品が生まれ続けることは、ルーカスが行った手法へのリスペクトになると思うし、これからの『スター・ウォーズ』を別次元へと拡張させていくことだろう。
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