ディズニー公式動画配信サービス「Disney+ (ディズニープラス)」で配信の「マンダロリアン」シーズン1(全8話)をネタバレなしでレビューします。
『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズであり、初の動画配信サービスオリジナル作品となった「マンダロリアン」。全8エピソードをすべて見た上で、シーズン1を通してのレビューをしていますが、ストーリーの核心など作品の詳細には触れておりません。
「マンダロリアン」をすでに全話ご覧になった方も、途中までご覧になった方も、「マンダロリアン」の印象が知りたい未見の方も、いずれもお読み頂ける内容にしております。
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さすらいのヒーローのフォーマットを『スター・ウォーズ』で
『帝国の逆襲』でダース・ベイダーの元に召集された、ボバ・フェットをはじめとした歴戦の手練であることを伺わせる賞金稼ぎたち。『新たなる希望』でオビ=ワンに「これ以上のクズと悪徳のみじめな巣窟は見られないだろう」と言わしめたモス・アイズリー宇宙港とその酒場。『ジェダイの帰還』にてジャバの宮殿を根城にしていたエイリアンやクリーチャーたち。そして、『クローンの攻撃』にて子連れで銀河の荒野を渡り歩くジャンゴ・フェット。
こうした『スター・ウォーズ』で印象的に登場した銀河のならず者たちの世界を抽出したのが、『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズ「マンダロリアン」だ。
常にマンダロリアン・アーマーに身を包んでいる腕利きの賞金稼ぎである主人公の「マンダロリアン」が、あるひとつの仕事を引き受けたことから流浪の旅が始まる。
基本的には1話完結型で、プロフェッショナルな賞金稼ぎであるマンダロリアンが幼な子の「ザ・チャイルド」と旅を続けながら、訪れた様々な地で仕事を受け、遂行する中で起こるトラブルをアクションで解決し、出会いと別れを繰り返し、なおもさすらいの旅は続く…というエピソードが展開されていく。
この構成は、テレビの西部劇や時代劇の流れ者や風来坊のヒーローを描くドラマシリーズと同様のフォーマットを『スター・ウォーズ』ギャラクシーに置き換えたものだと言えば、多くの視聴者にとってなじみやすく感じられるだろう。
映画の『スター・ウォーズ』もそうであったように、こうした西部劇や時代劇のエッセンスは「マンダロリアン」の作品のベースになっており、ただ単に「マンダロリアン」とか「マンドー」としか呼ばれない主人公からは、「名乗るほどの者ではない」というセリフを言いそうな、無頼のヒーローたちが思い起こされる。
実際に、ペドロ・パスカルはマンダロリアンの役作りとして『荒野の用心棒』で主人公の「名無しの男」を演じたクリント・イーストウッドの演技からインスピレーションを受けている。
ちなみに『荒野の用心棒』は黒澤明の『用心棒』の非公式なリメイクであり、ペドロ・パスカルはクリント・イーストウッドの要素だけではなく、黒澤映画といった時代劇のスタイルを織り交ぜているとも発言しているので、三船敏郎が演じた三十郎のイメージが入っているとも言えるかも知れない。
ペドロ・パスカルは、終始ヘルメットの下の顔が見られないという難しい役柄ながら、ちょっとした仕草やキレの良いアクションで、主人公のマンダロリアンを好演している。視聴者を鑑賞後に「ちょっと強くなったような気がする」と勘違いさせ、肩で風を切って歩く孤独な男の気分にさせてくれるかのようだ。
エピソードを積み重ねながら、シーズンを通して語られていくのは、そんな「名無し」なマンダロリアンが同族の仲間とともに民族の復興を目指しながら、守るべきものを見つけることで自身のアイデンティティーに向き合うという大きなストーリーだ。孤独に見えて実は民族の誇りと守るべきものを大切にしている、孤高という言葉が似合う姿を見せていく。
ドラマを通して、ブラスターをも通さぬ強度の合金であるベスカーを手に入れ、自身のマンダロリアン・アーマーが強化されていくのは、キャラクターの強化を描いていくだけではなく、そんなアイデンティティーを取り戻していくことを視覚的に表現しているかのようだ。
そして、非情な仕事とそのさすらいの旅の道中をともにするザ・チャイルドは、そのかわいらしさとヨーダの種族という設定のキャッチーさだけではなく、マンダロリアンが自身の過去と重ねて、弱き者に手を差し伸べるという彼の人間性と新たな生き甲斐、さらにはザ・チャイルドそのものがストーリー中のミステリーの装置としても機能していて、本作において重要な要素だ。
連続ドラマだからこそ出来る『スター・ウォーズ』
『スター・ウォーズ』で初めて、実写ドラマシリーズというフォーマットで制作された「マンダロリアン」ならではの面白さとして挙げられるのは、各エピソードごとに多彩なストーリー、テーマを様々なエピソード監督のタッチで描ける点だ。
まずストーリー面では、1話ごとにマンダロリアンが引き受ける仕事によって、銀河のあらゆる場所が舞台になり、そのジャンルはクライム・サスペンスアクションにもなれば、『七人の侍』をベースにしたものにもなる。
そして、デイヴ・フィローニ、デボラ・チョウ、リック・ファミュイワ、ブライス・ダラス・ハワード、タイカ・ワイティティといった各回ごとに担当するエピソード監督がそれぞれ演出することで、バラエティ豊かなテイストのエピソードが楽しめる。
『スター・ウォーズ』初の動画配信サービスオリジナル作品であるため、放送時間が定められているテレビシリーズと異なり、各話は最短31分~最長47分と本編の時間に自由が持たされているのも、こうしたエピソード監督にとって時間の制約をひとつ外した状態で創作が出来るようになっているのではないだろうか。
また、もともとジョージ・ルーカスが連続活劇(シリアル)として映画化されて人気を博していた「フラッシュ・ゴードン」の再映画化を考えており、『スター・ウォーズ』にその要素が取り込まれたように、連続ドラマというフォーマットは『スター・ウォーズ』との相性が非常に良い。ある意味、原点回帰とも言えるだろう。
このように「マンダロリアン」は、まさに連続ドラマだからこそ出来る『スター・ウォーズ』を実現させている。
長期に渡って展開されるドラマシリーズやアニメシリーズでは、シリーズを通しての大筋のストーリーとは関係ないものの、個性的で優れたエピソードが織り込まれるのも魅力のひとつ。
シーズン1では、ストーリーの導入やキャラクターの紹介などに時間を使わなければならなかったり、全8話と比較的本数が少ないシリーズということもあったが、基本設定を一通り説明し終わったシーズン2以降の「マンダロリアン」では、『スター・ウォーズ』の舞台設定やキャラクターを用いた多様なエピソードをますます期待したい。
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映画館から動画配信サービスへ—発表プラットフォームに合わせて作られた『スター・ウォーズ』
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』にてスカイウォーカー・サーガが完結し、しばらく『スター・ウォーズ』は映画館ではなく、「マンダロリアン」のように動画配信シリーズを主戦場とすることになる。
動画配信サービスにて、テレビモニターで見る新作『スター・ウォーズ』への違和感の有無は、そんなシリーズの今後を考えると気になるところだろう。結論としては、動画配信サービスというプラットフォームに合わせてトランスフォームした『スター・ウォーズ』だと言える。
まず、映画『スター・ウォーズ』における様式美のようなものは、2016年に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』、2018年に『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の2本のアンソロジーシリーズが公開されていることにより、オープニングクロールなどがなくても『スター・ウォーズ』になり得ることを知っているため、違和感を感じないようになっている。
また映画からドラマへの移行の際に重要になるスケール感という点では、映画シリーズにあったような大規模な戦闘はなく、「ウォーズ(戦争)」という印象ではないかも知れない。宇宙空間でのシーンは、宇宙戦闘機同士のドッグファイトが少しある程度で、基本的には舞台となる惑星間の移動シーンという位置づけだ。
スクリーンで繰り広げられた大迫力の『スター・ウォーズ』のドラマ版、というのを期待すると肩すかしになってしまうかも知れないが、「マンダロリアン」の銀河のはずれを舞台にしたストーリーを描く上では十分だと感じる(予算などの制約があるからこそのストーリーや、作り方をしているとも言える)。
また、音楽は従来の『スター・ウォーズ』のような管弦楽による華々しいものではなく、重々しく荒涼とした雰囲気を漂わせた「マンダロリアン」のテイストにマッチしたものとなっている。この点も、あの『スター・ウォーズ』のテーマをイメージされてしまうと違和感があるかも知れないが、作品のテイストに合わせてこれまでにないタイプの楽曲となっているのは、『スター・ウォーズ』音楽の新しい地平を切り拓いているように思える。
『ブラックパンサー』で第91回アカデミー賞作曲賞を受賞したルドウィグ・ゴランソンならではのタッチだが、メインテーマでは管弦楽も用いられており、『スター・ウォーズ』の楽曲らしいスケール感も出ていて、覚えやすいフレーズが印象的だ。
ファンが喜ぶ、ただ見せるだけではないイースターエッグ
そしてもちろん、『スター・ウォーズ』シリーズのエッセンスも多く盛り込まれていることは、ファンなら見逃せない点だ。
「マンダロリアン」が『スター・ウォーズ』ファンが喜ぶ要素の扱いが上手いと感じるところは、単にそのアイテムを少し見せたりするオマージュ、同様のシチュエーションを再登場させるのではなく、既存の作品で登場した要素を「そのような使い方をするのか!」など別の角度から見せるかのような、拡張性を感じさせる点にある。
他作品で登場したものの、紹介しきれなかった点を拡張して用いられているようで、ファンにとって文字通り世界が拡がったような感覚にさせてくれることが好印象だ。「ファンのことをわかっていますよ」というポーズではなく、作品世界にある既存の要素を用いて深く掘り下げていくことが、シリーズのためにもファンの楽しみのためにもなるのではないかと思う。
マンダロリアンの旅の行方に思いを馳せる
「マンダロリアン」の旅路は、普遍的なストーリーであるため、それこそ往年の西部劇や時代劇のように延々とシリーズを続けることも出来るだろう。
シーズン2を期待して待つとともに、はたしてこのシリーズにはどのような幕引きが待っているのか、またはヘルメットの下のマンダロリアン役の俳優を交代しながら終わりなき旅を続けるのが良いのか、完成度の高いシリーズであると感じた分、気が早いが早くもそんなことも考えさせられてしまう。
ボバ・フェット、ジャンゴ・フェットとも異なるキャラクター性を獲得した賞金稼ぎ・マンダロリアンのことをもっと知りたい、と思わせるには充分なシーズン1であった。
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